[SIJ: 22397] 新刊案内 キャサリン・マンスフィールドから百年 作品集(二)

Atimoda atimoda.atmo @ gmail.com
2022年 8月 21日 (日) 18:24:39 JST


ターラ瞑想センター、アティモダです。

プラヴァンの翻訳で、キャサリン・マンスフィールドの作品集2冊目のご案内です。

ぜひご購読ください。


キャサリン・マンスフィールド著、郷 尚文(Plavan)訳

『作品集(二)ドイツの療養宿にて』





Amazonペーパーバック版 2100円、Kindle版1900円。

ホームページにストアへのリンクがあります。



http://gurdjieff.la.coocan.jp/





<紹介>



マンスフィールド作品集(二)にあたる本書には、一九一一年に『ドイツの療養宿で』In a German Pension
という題名で発行された短編集に含まれる十三編のうち、作品集(一)に収録済みの『生まれた日』を除いた十二編と、マンスフィールドのその後の作品のうち、『子供っぽいけどとても自然なこと』と『ディル入りピクルス』を収めた。



〈目次〉

第一部 ドイツの療養宿で

肉をがっつくドイツ人 Germans at Meat

男爵さま The Baron

男爵夫人の妹 The Sister of the Baroness

フィッシャー夫人 Frau Fischer

ブレッヒェンマッハー夫人が村の結婚式に出たときの話 Frau Brechenmacher Attends A Wedding

モダンなお方 The Modern Soul

レーマンの店で At "Lehmann's"

大気浴 The Luft Bad

疲れてしまった女の子 The Child-Who-Was-Tired

進んだご婦人 The Advanced Lady

振り子の揺れ The Swing of the Pendulum

ほのお A Blaze

第二部 その後の作品より

子供っぽいけどとても自然なこと Something Childish but very Natural

ディル入りピクルス A Dill Pickle

解説



※大判型(A4)ペーパーバック109ページ。本文フォント11pt、縦書き二段組。標準的な単行本で約二倍のページ数に相当。



一八八八年にニュージーランドのウェリントンに生まれたキャサリン・マンスフィールドは、作品集(一)『カローリの思い出』で扱われたニュージーランドでの子供時代の後、二人の姉と同じくイギリスで教育を受けるべく、一九〇三年にウェリントンを離れ、ロンドンのクイーンズカレッジに通いつつ、家を離れての四年間を送った。一九〇七年にニュージーランドに戻るが、一九〇八年、一年あたり百ポンド(約五百万円相当)の仕送りを父のハロルドに約束させたうえで、作家を目指し、ロンドンに戻った。

キャサリンは、、十三歳でチェロを学びだしたころから、チェロの先生の息子でやはりチェロ奏者となったアーノルド・トロウェルに恋心を寄せ、ロンドンに行ってからも、ベルギーに音楽留学中のアーノルドに手紙を書いたりしていたが、この恋は実らず、キャサリンは代わってその弟であるバイオリン奏者の
ガーネットと関係を結び、その子を宿すが、一九〇九年三月二日、一転して、十一歳年上の音楽教師、ジョージ・ボーデンと式を挙げるが、その日のうちに失踪した。この騒ぎにキャサリンの母のアニーが介入し、こういうおかしいことになったのは娘の同性愛的な傾向のせいだと決めつけ、「悪友」からの引き離しと更生のため、
ドイツ・ババリアのバート・ヴェリスホーフェン(Bad Wörishofen
)のドミニコ会の修道院を中心とする鉱泉施設での療養を、娘のために手配した。キャサリンは、かなりの期間をそこで過ごしたようで、無事に済まなかった出産の後、ロンドンに戻ったのは、翌年の一月と伝えられている。

『ドイツの療養宿で
』と題された短編集は、このときの体験を題材として書かれ、もともとA・R・オラージュが編集発行する『ザ・ニュー・エイジ』に掲載された作品群を主要な中身として一九一一年に発行されたものである。マンスフィールドの生涯との重なりを見ると、作品集(一)がニュージーランドでの子供時代を題材としているのに対し、追加的に本書に収めた『
子供っぽいけどとても自然なこと』がカバーするロンドンでのカレッジ時代を経て、さらにその後の時期を扱ったものとして、続けて読むにふさわしい。

ただし、執筆順はこれと逆である。すなわち、作品集(一)に収めた作品群が(『生まれた日』を例外として)マンスフィールドの生涯の最後の七年間に書かれたのに対し、作品集(二)に収めた作品群は、やはり後期の作品である『ディル入りピクルス』を除いて、マンスフィールドの初期の作品である。『
ドイツの療養宿で
』のシリーズに含まれる作品群は、習作としての性格も帯びたいちばん初期のものであり、のちに本人は再版をためらったとも伝えられるが、シリアスな内容を扱いながらもユーモアに満ち、同時にパンチが効いた作品が多く、作者の自己紹介も兼ねており、その後のもっと熟成した作品で扱われる主題の種となるものをふんだんに含んでいるため、マンスフィールド作品の初心者が最初に読むにふさわしい内容である。

作品の舞台設定とマンスフィールドの体験との関係で、生むこと、生まれることの残酷と、そこからの救済という主題が、しばしばキリスト教と結び付いた文脈で取り上げられるが、マンスフィールドが正真と見なすところのキリスト教が、なかば公に認められ一般に知られる教義との関係で、かなり挑戦的なものであることは、作品集(二)に収めた初期の作品群においてすでにもう、あからさまとなっている。

キリスト教のなかば公に認められた教義が旧約聖書に描かれた犠牲と服従を求める〈生めよ殖やせよ〉の神の崇拝を引き継いでいるのに対し、フランスのルルドにあやかろうとしたところがちょっとあるように見えるドイツのバート・ヴェリスホーフェンのような場に集まる人たちが求めるのは、むしろそのような〈神〉からの救いである。このような場で信仰と治療が一体化することの背景には、しばしば〈奇跡〉として語られるこの救いへの希求がある。それは「肉がその生まれゆえに相続を迫られるところの病」(
*1
)からの救いへの希求だから、その奥底には、そうした肉の苦しみの源である〈生めよ殖やせよ〉の神に対する憎しみとまでは言えないまでも少なくとも二重の思いがある。

「最後の苦しみようがものすごくてね……死ぬのに六十七時間かかった」(*1)、「〈自然〉には心がない……創っては壊す。食べては吐き、吐いては食べる」(*2
)、「天にまします神様……間違いなくお馬鹿な方ね」(*3)。



*1:『大気浴』より。

*2:『進んだご婦人』より。

*3:『ブレッヒェンマッハー夫人が村の結婚式に出たときの話より』



本書にはほかに、マンスフィールドのその後の作品のうち、『子供っぽいけどとても自然なこと』と『ディル入りピクルス』を収めた。『子供っぽいけどとても自然なこと』は、一九一四年にパリで執筆された作品で、文芸誌への掲載のためにごく短いものを主体とした初期の作品のなかでは目立って長い作品である。マンスフィールドの生涯との重なりでは、『ドイツの療養宿で』が扱うより前の時期の自身の体験や男性観を反映したものと思われ、そこで描かれた、プラトニックなロマンと合わさっての、男女の関係で一線を超えることへのためらいは、その後にマンスフィールド自身がかいくぐった過酷な体験を思うと、同性愛的な傾向や宗教的な禁忌といったことより、まさに自然なおびえ、〈生めよ殖やせよ〉とそれに結び付いた結婚と家庭の罠に対して幸いにも〈頭〉を失っていない女が覚えて当然の警戒感によるものだったことが察せられる。

この作品とそれに続けて収録した後期の作品『ディル入りピクルス』は、いずれも個としての内的な成長の問題を男と女の関係のありかたと結び付けて扱ったもので、男と女の間で内的な成長の度合いに差があることの結果として起きざるをえないことを取り上げたものとして読むならば、そのパターンのあらわれかたは、この二つの作品の間で対照的である。『ディル入りピクルス』は、作品集(一)に収録したバーネル家の物語に登場するイザベルのその後を扱ったものとして読むこともできる。

『ディル入りピクルス』は、これまでたぶんほとんどだれも気付いていない秘密を隠した作品でもある。芥川龍之介が取り上げたために、海外より日本でよく知られている、ドストエフスキーに由来するある物語との決定的な類似に気づいたら、これは男の無神経を批判する作品という定説が、とんでもない見当違いであったことがが明白になる。そしてこの定説によって批判された、どうにもならない女から捨てられて(あるいは捨てて)ロシアへと向かい、そこで人間の精神を扱う「システム」を学んだ男の正体は?
女と別れて旅の日々を送ったはずの男がおそらくかなりカネを稼いだというのは、いったいどうやって?
そしておそらく一九一七年というタイミングでロンドンにふたたび姿をあらわしたことの背景は?





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Atimoda @ Osho Tara M. C.

http://www.osho-tara.site/

Plavan @ グルジェフ&グルジェフ・ムーヴメンツ

http://gurdjieff.la.coocan.jp/

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